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「以徳報怨」と蔣介石」(平成25年5月8日記事)を御一読の上。
蔣介石「抗戦勝利告全國軍民及全世界人士書(抗戦に勝利し全国の軍民、および世界のひとびとに告げる演説)」 一九四五年(昭和二十年)、民国三十四年八月十五日、重慶からラジオ放送 (右写真は放送時の蔣介石とされる)
全国軍民同胞よ! 全世界の平和を愛する人々よ! 我々の抗戦は、今日、ここに勝利しました。
「正義は必らず強権に勝る」との真理はその最後の証明をえました。これはまた、我々国民革命の歴史的使命が成功したことをあらわしてもおります。暗黒と絶望の時期 にあった我が中国の八年にわたる奮闘の信念は、今日、ようやく実現されました。
我々は我々の面前に姿をあらわした世界平和にたいし、全国抗戦以来の犠牲となった我が忠勇なる軍民、先烈に感謝しましょう。正義、平和のためにともに戦った我々の盟友に感謝しましょう。とりわけ、わが国父が辛苦艱難ななかに我々の革命を正しい途に導き、我々に今日の勝利の日を迎えさせてくれたことに感謝しましょう。とりわけ全世界のキリスト教徒は一致して公平にして慈しみ深い上帝に感謝しましょう。
抗戦以来、わが全国の同胞が八年間にうけた苦痛と犠牲は年ごとに深くなりましたが、抗戦必勝の信念は日ましに強くなったのであります。とりわけ、倫陥区のわが同胞は、 限りない残酷な扱いと奴隷的恥辱の暗黒を味わい尽しましたが、今日ここに完全に解放されて、青天白日をふたたび見ました。この数日来の、各地軍民の歓呼と快慰の気分の主たる意義は、被占領区の同胞が解放をえたことによるのにほかならないのであります。
いまや我々の抗戦は勝利しました。しかしまだ、最後の勝利というわけにはいきません。我々の戦勝の涵義は、世界の公理の力がまた一度、勝利をおさめたという点に止まらないことを知るべきであります。
私は、全世界の人類とわが全国の同胞は、必ずやこの度の戟争が世界の文明国が参加した最後の戦争であって欲しいと望んでいる、と信じます。
我々は、もし、この度の戦争が人類の歴史における最後の戦争であるなら、忍痛すること形容しがたい残酷と凌辱をわが同胞がうけたとはいえ、しかしながら、これにたいする代価が大きいか小さいか、収穫が早いか遅いかを、我々一同、あれこれ詮議だてしないであろう、と信じます。
もっとも暗黒で絶望の時代にあって、我々中国人民はわが民族に一貫する忠勇仁愛、偉大な堅忍の伝統精神をかかげ、すべては正義と人道のため奮闘するがゆえの犠牲であって、必ずやあたえられてしかるべき報償をえるものと深く知っておりました。 戦争によって連合した全世界の民族相互に生まれた尊重と信念、これがこの度の戦争が我々にあたえた最大の報償であります。わが連合国が青年の血と肉でうちたてた反侵略の長い堤防は、参加したすべてのひとびとが、一時的に結ばれた盟友としてではなく、ひたすら人類の尊厳という共同の信念のために永久的に団結して形成したものであ ります。これはわが連合国がともに勝利したもっとも重要な基礎であって、敵のいかなる挑発離間の陰謀によっても絶対に破壊されません。今後は東西を分かたず、皮膚の色を問わず、およそ人間であるかぎり、家族となり手足となる以上に、日ましに加速度的に緊密に連合するであろうとわたしは信じます。
この度の戦争は、我々人類が互いに理解し尊敬する精神を発揚し、相互の信頼関係を樹立するものであること、かつまた、世界戦争と世界平和とは不可分なものであることを証明しました。これによって、今後、戦争が発生することは不可能になりました。
ここまで語ってきて、わたしはキリストの垂訓にのべられている「人々からしてほしいと望むことは、人々にもそのとおりにせよ」と、「敵を愛せよ」という二つの言葉を 思い、無限の感慨をおぼえるものであります。
わが中国の同胞は、「旧悪を念わず」と「人に善を為す」がわが民族伝統の高く貴い徳性であることを知らなければなりません。われわれは一貫して、日本人民を敵とせず、ただ日本の横暴非道な武力をもちいる軍閥のみを敵と考えると言明してきました。
今日、敵軍は我々同盟国が共同してうち倒しました。彼らが投降の条項をすべて忠実に実行するよう、我々が厳格に督励することはいうまでもありません。ただし、我々は報復してはならず、まして敵国の無事の人民に汚辱を加えてはなりません。彼らが自ら誤りと罪悪から脱出できるように、彼らがそのナチス的軍閥によって愚弄され、駆りたてられたことに、我々は慈愛をもって接するのみであります。もし暴行をもって、かつて敵が行った暴行に答え、奴隷的屈辱をもってこれまでの彼らの優遇感に答えるなら、仇討ちは仇討ちを呼び、永遠に終ることはありません。これは我々仁義の師の目的では、けっしてありません。これは我々の軍民同胞ひとびとひとりが、今日にあってとくに留意すべきことであります。
同胞よ! 中国を侵略した敵である帝国主義は我々によって敗北しました。しかし、我々は真の勝利の目的は達成していません。我々は彼の侵略の野心と侵略の武力を徹底的に消滅しなければなりません。我々は勝利の報償は驕慢と懈惰でないことを 知るべきであります。戦争が確実に停止されてからの平和には、難難な仕事が待っていて、戦時と同じ苦痛と戦時よりさらに大きな力をもって、我々が改造と建設にとりくまなければならないことをあきらかに示すでありましょう。あるいは、ある時期、ある問題にぶつかって、我々は戦時より苦しく、困難であることを、そしてそれらが時と処を問わず我々の頭上に臨むことを、感じさせられるでありましょう。
わたしがこのように申しますのは、もっとも困難な仕事に思いいたったからであります。それは、ファッショ的、ナチス的軍閥国家の誤った指導をうけたひとびとのことであります。どのようにして、彼らに自分の誤りと敗北を認めさせるか。そればかりでなく、心から喜んで我々の三民主義をうけいれ、彼らの武力による掠奪と強権によ る恐怖の競争に比べて、公平で正義の競争が、はるかに真理と人道の要求に合致するものであるかを承認させるか。これが我々中華民族と同盟国の今後のもっとも辛苦にみちた仕事であります。
全世界の恒久平和は人類の平等、自由の民主主義精神、博愛、互助の協力の基礎のうえに築かれる、とわたしは確信しております。我々は民主主義と協力の大きな道を邁進し、ともども全世界の恒久平和を擁護しましょう。
全世界の同盟国の人士、およびわが全国の同胞たちにお願いしたいのは、我々が武装によって獲得した平和は、恒久平和が完全に実現されたのではなく、理性の戦場において、我々の敵が我々によって征服され、彼らが洗いざらい儀悔して、我々と同じようにこの世界における平和を愛する人間となってのち、はじめて我々全人類が求める平和、およびこの度の世界大戦の最後の目的が達成されることを信じていただきたい、というこのことであります。
(原題=抗戦勝利告全国軍民及世界人-資料出所=糞哲的編『先総統蒋公全集』中国文化大学中華学術院編印 一九八四年 民国七十四年七月/翻訳 竹内 実)
【出典】『日中国交基本文献集 下巻』竹内実 編 平成五年(1993) 蒼蒼社
⇒演説の文章の為だろうか「われわれ」が多用され、やや見苦しく感じたので「我々」と表記した。
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「以徳報怨」と蔣介石」(平成25年5月8日記事)を御一読の上。
蔣介石「抗戦勝利告全國軍民及全世界人士書(抗戦に勝利し全国の軍民、および世界のひとびとに告げる演説)」
一九四五年(昭和二十年)、民国三十四年八月十五日、重慶からラジオ放送
(右写真は放送時の蔣介石とされる)
全国軍民同胞よ!
全世界の平和を愛する人々よ!
我々の抗戦は、今日、ここに勝利しました。
「正義は必らず強権に勝る」との真理はその最後の証明をえました。これはまた、我々国民革命の歴史的使命が成功したことをあらわしてもおります。暗黒と絶望の時期 にあった我が中国の八年にわたる奮闘の信念は、今日、ようやく実現されました。
我々は我々の面前に姿をあらわした世界平和にたいし、全国抗戦以来の犠牲となった我が忠勇なる軍民、先烈に感謝しましょう。正義、平和のためにともに戦った我々の盟友に感謝しましょう。とりわけ、わが国父が辛苦艱難ななかに我々の革命を正しい途に導き、我々に今日の勝利の日を迎えさせてくれたことに感謝しましょう。とりわけ全世界のキリスト教徒は一致して公平にして慈しみ深い上帝に感謝しましょう。
抗戦以来、わが全国の同胞が八年間にうけた苦痛と犠牲は年ごとに深くなりましたが、抗戦必勝の信念は日ましに強くなったのであります。とりわけ、倫陥区のわが同胞は、 限りない残酷な扱いと奴隷的恥辱の暗黒を味わい尽しましたが、今日ここに完全に解放されて、青天白日をふたたび見ました。この数日来の、各地軍民の歓呼と快慰の気分の主たる意義は、被占領区の同胞が解放をえたことによるのにほかならないのであります。
いまや我々の抗戦は勝利しました。しかしまだ、最後の勝利というわけにはいきません。我々の戦勝の涵義は、世界の公理の力がまた一度、勝利をおさめたという点に止まらないことを知るべきであります。
私は、全世界の人類とわが全国の同胞は、必ずやこの度の戟争が世界の文明国が参加した最後の戦争であって欲しいと望んでいる、と信じます。
我々は、もし、この度の戦争が人類の歴史における最後の戦争であるなら、忍痛すること形容しがたい残酷と凌辱をわが同胞がうけたとはいえ、しかしながら、これにたいする代価が大きいか小さいか、収穫が早いか遅いかを、我々一同、あれこれ詮議だてしないであろう、と信じます。
もっとも暗黒で絶望の時代にあって、我々中国人民はわが民族に一貫する忠勇仁愛、偉大な堅忍の伝統精神をかかげ、すべては正義と人道のため奮闘するがゆえの犠牲であって、必ずやあたえられてしかるべき報償をえるものと深く知っておりました。
戦争によって連合した全世界の民族相互に生まれた尊重と信念、これがこの度の戦争が我々にあたえた最大の報償であります。わが連合国が青年の血と肉でうちたてた反侵略の長い堤防は、参加したすべてのひとびとが、一時的に結ばれた盟友としてではなく、ひたすら人類の尊厳という共同の信念のために永久的に団結して形成したものであ ります。これはわが連合国がともに勝利したもっとも重要な基礎であって、敵のいかなる挑発離間の陰謀によっても絶対に破壊されません。今後は東西を分かたず、皮膚の色を問わず、およそ人間であるかぎり、家族となり手足となる以上に、日ましに加速度的に緊密に連合するであろうとわたしは信じます。
この度の戦争は、我々人類が互いに理解し尊敬する精神を発揚し、相互の信頼関係を樹立するものであること、かつまた、世界戦争と世界平和とは不可分なものであることを証明しました。これによって、今後、戦争が発生することは不可能になりました。
ここまで語ってきて、わたしはキリストの垂訓にのべられている「人々からしてほしいと望むことは、人々にもそのとおりにせよ」と、「敵を愛せよ」という二つの言葉を 思い、無限の感慨をおぼえるものであります。
わが中国の同胞は、「旧悪を念わず」と「人に善を為す」がわが民族伝統の高く貴い徳性であることを知らなければなりません。われわれは一貫して、日本人民を敵とせず、ただ日本の横暴非道な武力をもちいる軍閥のみを敵と考えると言明してきました。
今日、敵軍は我々同盟国が共同してうち倒しました。彼らが投降の条項をすべて忠実に実行するよう、我々が厳格に督励することはいうまでもありません。ただし、我々は報復してはならず、まして敵国の無事の人民に汚辱を加えてはなりません。彼らが自ら誤りと罪悪から脱出できるように、彼らがそのナチス的軍閥によって愚弄され、駆りたてられたことに、我々は慈愛をもって接するのみであります。もし暴行をもって、かつて敵が行った暴行に答え、奴隷的屈辱をもってこれまでの彼らの優遇感に答えるなら、仇討ちは仇討ちを呼び、永遠に終ることはありません。これは我々仁義の師の目的では、けっしてありません。これは我々の軍民同胞ひとびとひとりが、今日にあってとくに留意すべきことであります。
同胞よ!
中国を侵略した敵である帝国主義は我々によって敗北しました。しかし、我々は真の勝利の目的は達成していません。我々は彼の侵略の野心と侵略の武力を徹底的に消滅しなければなりません。我々は勝利の報償は驕慢と懈惰でないことを 知るべきであります。戦争が確実に停止されてからの平和には、難難な仕事が待っていて、戦時と同じ苦痛と戦時よりさらに大きな力をもって、我々が改造と建設にとりくまなければならないことをあきらかに示すでありましょう。あるいは、ある時期、ある問題にぶつかって、我々は戦時より苦しく、困難であることを、そしてそれらが時と処を問わず我々の頭上に臨むことを、感じさせられるでありましょう。
わたしがこのように申しますのは、もっとも困難な仕事に思いいたったからであります。それは、ファッショ的、ナチス的軍閥国家の誤った指導をうけたひとびとのことであります。どのようにして、彼らに自分の誤りと敗北を認めさせるか。そればかりでなく、心から喜んで我々の三民主義をうけいれ、彼らの武力による掠奪と強権によ る恐怖の競争に比べて、公平で正義の競争が、はるかに真理と人道の要求に合致するものであるかを承認させるか。これが我々中華民族と同盟国の今後のもっとも辛苦にみちた仕事であります。
全世界の恒久平和は人類の平等、自由の民主主義精神、博愛、互助の協力の基礎のうえに築かれる、とわたしは確信しております。我々は民主主義と協力の大きな道を邁進し、ともども全世界の恒久平和を擁護しましょう。
全世界の同盟国の人士、およびわが全国の同胞たちにお願いしたいのは、我々が武装によって獲得した平和は、恒久平和が完全に実現されたのではなく、理性の戦場において、我々の敵が我々によって征服され、彼らが洗いざらい儀悔して、我々と同じようにこの世界における平和を愛する人間となってのち、はじめて我々全人類が求める平和、およびこの度の世界大戦の最後の目的が達成されることを信じていただきたい、というこのことであります。
(原題=抗戦勝利告全国軍民及世界人-資料出所=糞哲的編『先総統蒋公全集』中国文化大学中華学術院編印 一九八四年 民国七十四年七月/翻訳 竹内 実)
【出典】『日中国交基本文献集 下巻』竹内実 編 平成五年(1993) 蒼蒼社
⇒演説の文章の為だろうか「われわれ」が多用され、やや見苦しく感じたので「我々」と表記した。