ヤロワ・スタジアムの日章旗(The rising‐sun flag at Yalova stadium)

投稿日:2013-02-27 - 投稿者(文責):mumeijin

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2005年(平成17)7月、トルコ最大の都市イスタンブールから南方へ海路一時間程に位置するヤロワ県(Yalova/「ヤロヴァ」表記も)でトルコ政府主催による「トルコ諸民族文化祭」が開かれた。この文化祭の意義とは世界中のトルコ系諸民族を集め、彼らの母国を自認するトルコが、世界中のトルコ系諸民族のアイデンティティを確認するためのものである。

ここでの「トルコ」とは小アジアに位置するトルコ共和国のみを意味せず、小アジア~バルカン半島~カフカス~中央アジア~モンゴル~シベリアに至る広大な地域に住むトルコ系の諸民族を指す。この地にはカザフ人、アゼルバイジャン人、キルギス人、タタール人、トルクメニスタン人といったトルコ系諸民族が居住しており、この文化祭にはこれらの地域からトルコ系諸民族が招待された。

そのなかには東トルキスタン(中国新疆ウイグル自治区)に住むトルコ系民族のウイグル人も含まれていたが、問題はウイグル人側の主催が東トルキスタン亡命政府であったことである。

東トルキスタン亡命政府首脳のトルコ入国計画を察知した中国は、すぐに駐トルコ中国大使館を通じてトルコ政府とヤロワ県に対して東トルキスタン亡命政府メンバーのトルコ入国を拒否させるべく圧力をかけた。これに対してトルコ政府やヤロワ県は当然反発したが、中国の態度は強硬なものとなり、最後には「トルコ政府が東トルキスタン亡命政府を招待すれば、中国はクルディスタン労働者党に対する援助を行い、トルコ領内でのクルド独立運動を支援する」と脅迫したという。

結局、トルコ政府は中国の要求を一部受け入れたようで、文化祭へのウイグル人の参加は許されはしたものの東トルキスタン亡命政府のアンワル首相はトルコ入国を拒否される。また中国の圧力に対する妥協として東トルキスタン旗(キョック・バイラック)の会場内外での掲揚は自粛との暗黙の諒解があったそうである。民族の母国トルコに於いてまでも中国共産党政府の圧力を受け、屈辱を受けなければならなかったウイグル人の気持ちはいかばかりであっただろうか。

しかし話はこれで終わらない。

このトルコ諸民族文化祭にはある一群が参加していた。彼等十名は宿泊先のホテルからメイン会場のスタジアムまでの間、東トルキスタン旗(キョック・バイラック)、トルコ国旗などを掲揚しながら行進をした。堂々と。中国政府から圧力が加わっていることを知っていた沿道のトルコ国民は大いに驚きそして喜んだ。皆この見慣れぬ民族衣装の一団に喝采を送った。

「Japon(ヤポン)!Japon(ヤポン)!」

トルコ人で日章旗を知らぬ者はいない。
キョック・バイラック、トルコ国旗とともに大きな日の丸が風になびいている。スタジアムに到着した和服姿の一行は、主催者や警察官らからトルコ国旗以外の旗を降ろすよう告げられたものの、それがかえってスタジアム全体の注目を集めることとなった。大観衆からの熱烈な声援と謝意を表す口笛と拍手が鳴り止まなかったという。

中国の脅しの前、失意にあったウイグル人を日本人が共感をもって励ました瞬間であった。


Japonlardan destek(日本人が支援に)

ヤロワ・スタジアム事件を伝える現地新聞。キョック・バイラック、日の丸、そして内モンゴル人民党旗もみえる。
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〇ヤロワのこの一件については中国民族問題研究会発行『中国事情-民族問題研究-(中国民族問題研究)』第六号(2005)所収P24~28「ヤロワ・スタジアムの日章旗」が原典である。著者で政治学者である殿岡昭郎氏はヤロワ県で羽織袴姿でキョック・バイラックを捧持していた御本人でもある。そして本項は「ヤロワ・スタジアムの日章旗」を読んだ筆者が紹介のため略述したもの。『中国民族問題研究』第六号には、なぜ殿岡昭郎氏一行が東トルキスタン旗を堂々と掲げるに至ったかについての説明がなされている。表題もそのままお借りした。

〇現在、トルコ政府は中国との関係悪化を避けるため、概してウイグル人のおかれた境遇に冷淡な態度を取らざるおえないという。だがトルコの国民レベルではウイグル人に対する同情の気持ちが非常に強い。ムスリムとして、何より同じチュルク系民族としてウイグル人を同胞としてとらえているのである。そのためトルコでは活発にトルコ国旗とキョック・バイラックを掲げた東トルキスタン支援の集会やデモ行進が行われている。

〇「中国民族問題研究」の入手方法については次のサイトを参照
「中国の少数民族は東アジア問題解決の起爆剤」をモットーに、中国の少数民族に関する記事・ 論文を掲載しています。チベット・ウイグル・内モンゴルの人々の手による記事も多く掲載してきました。 購買拡大にご協力ください」とのこと。
http://uygur.fc2web.com/uygur17.html

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河内長野市商工会青年部オフィシャルサイト