『ダライ・ラマ法王と日本人-The 14th Dalai Lama&Japanese-』

投稿日:2013-01-08 - 投稿者(文責):mumeijin

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先日、地元の小さな書店で一冊の書籍を見付けて購入しました。

『ダライ・ラマ法王と日本人 -The 14th Dalai Lama&Japanese-』(徳間書店Mook/860円(税込 )

これはチベットの歴史、ダライ・ラマ法王、そしてチベット仏教(&美術)に関心がある初心者にとっておそらく買いの一冊。100ページ程のムック形式(A4版)でありながら寄稿者に松長有慶、奥山直司、石濱裕美子、田中公明(敬称略 )といった専門家が揃い、豊富な写真は全てカラー、巻頭写真は田村仁によるもの。ダライ・ラマ法王とチベット仏教関連の超初心者向けのものとして非常にお勧めです。

「中国」そのものよりチベットや東トルキスタンといった「中国の版図に組み込まれた周辺部」にこそ文化的に貴重で興味深いものを感じて魅かれるというひとはいないだろうか。私はそうである。真偽は定かではないが、現在中国には春節、国慶節、労働節といった 「節」はあるがこれといった「祭」はないという意見を聞いたことがある。

1949年の建国当時から阿片とみなして宗教を弾圧し御用宗教として管理を行っていたのが「中国共産党が所有する国家・中国」の歴史であろう。「哲学・芸術・宗教そして科学などの精神的活動、およびその所産」を文化と定義すると、それらの多様性を認めることなく排除していたのが中国ではなかったか。特に1966年からの10年間のあいだにこれらは徹底されている。中国全土を破壊と無秩序が襲った文化大革命の時代である。

2001年、アフガニスタンを支配していたイスラム原理主義政権タリバンがバーミヤン渓谷の磨崖仏を破壊して非文明的行為として国際的な批判を受けた事があった。しかし何のことは無い。文革時には中国全土でタリバンをはるかに凌ぐ規模で寺院破壊、仏像破壊、僧侶の強制還俗などに始まる文化破壊が行われていたのだ。だが不思議なことだが、これらの蛮行に対して日本のテレビ、新聞をはじめとするメディアは今に至るまで抗議を行う事無く随分寛大な態度に終始しているではないか。

話を戻す。20年前と比較してチベット関連書が充実していることには今昔の感に堪えない。当時チベット関連の日本語書籍というものは案外に少なかったように思う。チベット仏教に関するものも難解な仏教書であったり、いまだに「ラマ教」と表記するものもあった。

1991年、チベットを四十日かけて旅した。それは 首都ラサから途中ネパールに近接するカイラス山(カンリンポチェ)を経てウイグルの中心都市カシュガルまでの四千㎞を踏破するというものであった。当時チベットは「チベット解放40周年(17条協定調印)」記念の年にあたり、そのためチベット人による反中国活動が活発化する兆しがあった。ラサ到着直前の7月4日のダライ・ラマ法王誕生日に合わせ、チベット人による蜂起が行われていたということは後に知ったが、宿泊していたホテルでは公安(警察)が深夜突然、部屋に闖入して身分証明を求めるといった外国人に対する示威行為と思われる行動もあった。またラサ郊外の森林限界を超えた無名峰を高度順応の訓練のために地元ガイドと登山していた時には、眼下の人民解放軍駐屯地から射撃訓練の標的としてなのだろうか、僅かに逸れる様なかたちで銃撃を受け続けた。地元ガイドが必死に目印となる赤旗を振り続けていたにも関わらず暫く射撃は止まずただ地面に体を伏せる事しか出来なかった…一体何を考えているのだ。

なおラサではダライ・ラマ14世のポートレイトはチベット人により細々と販売することが許されていたが、一方で中国政府による官製出版物では89年に“急逝”したパンチェン・ラマ10世の写真が多用されており、その正統性を誇示させているのがいやでも気付かされた。

1989年3月、ラサで発生したチベット人の抗議デモに対して中国は武力でこれを弾圧、二日後には中華人民共和国始まって以来の戒厳令がラサに布告された。この時のチベット自治区党書記は後に共産党総書記、中国国家主席となる胡錦濤である。このラサ蜂起の三ヶ月後には天安門事件が発生、同年10月ダライ・ラマ14世にノーベル平和賞が贈られると、世界は漸くチベットで何が行われていたのか、事の深刻さに注目することとなった。チベット人の幾度もの決死の訴えはこの後も継続される。北京五輪が行われた年(2008)の3月14日にはラサでチベット人による反中国抗議活動が発生、この動きは隣接する青海、四川、甘粛、雲南等のチベット自治州にも拡大して世界中で聖火リレーに対する抗議運動に引き継がれることとなる。世界はチベット人の命懸けの抗議運動に呼応したのである。

  
 
 

五年前の蜂起以降、チベット人の大規模な抗議運動についての情報は途絶えている。その一方で僧侶による抗議の焼身自殺は既に80名を数えており、チベット人をめぐる環境が余程切羽詰まっているとしか考えられない。五年前から状況は更に悪化しているのである。北京五輪そして上海万博を経験したところで中国に民主化・自由化は来なかったのだ。

昨年末「中国はチベット自治区への外国人入域許可証の発行を、日本人だけに禁止している」という報道があった。その理由については「尖閣諸島の問題に加えて11月にチベット仏教最高指導者、ダライ・ラマ14世が来日した際、安倍晋三(現首相)が中心となった超党派の国会議員134人が『チベット支援国会議員連盟』を結成したことによる制裁措置」との憶測が強いという。また年末の衆議院議員選の翌日にはチベット亡命政府のロブサン・センゲ首相が安倍自民党の勝利に対して次の意味の声明を発表している。なおセンゲ首相は昨年4月の来日時に安倍晋三氏と会談を行っている。

――― チベット人を代表して、安倍晋三氏を祝福し、日本の次期首相としての幸運を祈りたい。チベット人の民主主義と非暴力の戦いに対する日本人と日本政府の長期にわたる支えに感謝する。

「平和で安全」な国で生まれ生きている我々日本人にはチベット問題、チベット民族のおかれた境遇というものはいつまでも対岸の苦しみであるのか。そうではないだろう。昨年11月の安倍氏の「私はチベット支援を続けることを約束する。そして抑圧されたチベットの人々の状況を改善することを約束する」という発言にはこれまでになかったチベットに対する強い関心がみてとれる。

願わくばチベット、東トルキスタン、その他中国の人権問題で安倍自民党政権が具体的な有効な行動をとられることを支持するとともに強く期待する。

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*チベットに関する信頼出来る情報源としては、インド・ダラムサラにあるチベット亡命政権の日本での代表機関「ダライ・ラマ法王日本代表部事務所」のサイトをお勧めします。

◇ダライ・ラマ法王日本代表部事務所◇
http://www.tibethouse.jp/
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