「一つの中国」とは何か?

投稿日:2017-01-17 - 投稿者(文責):mumeijin

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nikkei
日本経済新聞(2016/12/12 夕刊)
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今月11日、トランプ次期米大統領は「一つの中国」という従来の米国政府の政策を維持するかどうかは、中国の対応次第であるとの考えを表明した。それでは、米国が維持してきたという「一つの中国」とは何を意味するのか。この「一つの中国」は誤解や曲解されていることがあり、トランプ発言を報じた日本経済新聞(12月12日夕刊)では、「一つの中国 縛られず」という記事とともに「一つの中国」の解説が立項されているが、それ自体が誤っている。そこでまずは、ここで全文を確認してみたい。

▼一つの中国 米国は第2次世界大戦後、毛沢東率いる共産党と蔣介石の国民党で内戦状態にあった中国に対し、共産主義への対抗のため当初は国民党を支持した。しかしニクソン大統領が1972年に電撃的に中国を訪問し、米中関係正常化で一致。79年に米国と中国は外交関係を樹立した。
中国が全ての中国を代表する唯一の合法的政府であり、台湾を中国の一部とする「一つの中国」の原則の下で、米国は79年に台湾と断交した。一方で有事の際に台湾の防衛や武器提供などを可能にする台湾関係法を制定し、台湾との非公式関係を構築するなど、中国と台湾とのバランスをとった外交を進めていた。

赤線の個所は誤りである。

米国の「一つの中国」政策は、「中華人民共和国が主張する台湾の主権」を認めていない。では実際には何を認めているのか?それは、米国は「一つの中国政府(中華人民共和国)のみを認める。二つの中国政府(中華人民共和国政府と中華民国政府)をそれぞれ認めない」ということである。米中が合意しているのは、中国(中華人民共和国)が全ての中国を代表する唯一の合法的政府である、という点においてである。

日本経済新聞の「一つの中国」項は、米国政府の主張を、誤認識しているか、もしくは曲解している。なお日経では、同日の記事自体でも吉野直也記者の署名記事で、同様の過ちを記述している。

トランプ次期米大統領は11日放送のFOXテレビの番組で、米国が台湾を中国の一部とみなす「一つの中国」という従来の政策を維持していくかは、中国の対応次第だとの考えを表明した。相手を揺さぶりながら交渉を優位に運ぼうとするトランプ流の発言とみられるが、中国の反発は必至だ(後略)。

「一つの中国」を「台湾が中国の一部」と同義語にしているのは中華人民共和国政府(と日本経済新聞)であり、米国の「一つの中国」政策にはそのような意味は無い。現実を直視すれば理解出来ることである。台湾は独自に、司法、行政、立法権を有し事実上の主権国家として存在しており、中華人民共和国による支配を一度も受けていない。では、「台湾の独立」とは何を意味するかであるが、中華人民共和国からの台湾の分離独立である訳がなく、台湾が全中国を代表するというフィクションの中国体制(中華民国体制)を放棄し、現状に合致した憲法や国号の制定を経て台湾国(台湾共和国)として建国することで、これにより主権国家としての当然の権利(例えば国連への加盟や日本や国際社会との国交樹立)を行える国家を建国することを言う。

米中の言う「一つの中国」とは異なる意味であることを理解し、中華人民共和国の「一つの中国(台湾は中国の領土である)」と、米国政府の「一つの中国(現在、中国の合法政府は中華人民共和国であり、台湾の中華民国ではない)」とを峻別しなければならない。中華人民共和国の宣伝する「一つの中国」を米国のそれと混同してしまいがちであるが、中国の「一つの中国」主張では、台湾はチベット、東トルキスタン、尖閣諸島、南シナ海同様に中国の核心的利益(中国が譲ることの出来ないとする最重要の国益)であり、最終的に統一するという内容なのである。


現在、中華人民共和国(中国共産党)が、台中間の状況で断固反対しているのが以下の5つの状況を認めることである。中国が断固反対するということは、つまり道理にかなっているのである。①に関しては現状その通りであること、④の推進については結局は台湾人の意志に関わることであろう。また⑤は日本政府の立場である、台湾地位未定(日本は台湾の主権を放棄したがその帰属先は未定であり、中国が主張する中国の台湾主権を認めず)という事実を指す。

①「一つの中国、一つの台湾」
②「一つの中国、二つの政府」
③「二つの中国」
④「台湾独立を目的とする活動」
⑤「台湾の地位は未定であるとする主張」

世論調査
BSフジLIVE プライムニュース『トランプ×一つの中国 論戦…金美齢VS朱建栄』(1/13放送)より
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現在、大半の台湾人は自らを台湾人と認識しており、台湾と中国とを別の主権国家として認識している。ただ惜しむべきは、現状維持を容認する割合が約半数に達しており、台湾独立を希求する割合は僅かに2割弱であるということである。残念ながら、2005年に中国が制定した反国家分裂法(※)という武力を背景とした恫喝は、台湾人に対して一定程度成功しているのである。

李登輝政権を境に、自由と民主主義社会を享受したはずの台湾人、彼らの胸中や果して如何。
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(※)反国家分裂法 第8条
「台湾独立」分裂勢力がいかなる名目、いかなる方式であれ台湾を中国から切り離す事実をつくり、台湾の中国からの分離をもたらしかねない重大な事変が発生し、または平和統一の可能性が完全に失われたとき、国は非平和的方式その他必要な措置を講じて、国家の主権と領土保全を守ることが出来る。


河内長野市商工会青年部オフィシャルサイト